動物たちの病気 症例集診療内容の一部紹介

動物たちの病気 症例集

多発性骨髄腫

多発性骨髄腫

 

病態

多発性骨髄腫とは免疫を司る細胞(プラズマ細胞、形質細胞)が腫瘍化した状態を指します。

プラズマ細胞とは本来は免疫に関与している細胞で、抗体を生成し、外から体内に入ってきた病原体の排除をスムーズに行うよう、免疫調節機構の一部を担っております。

 

このプラズマ細胞の腫瘍には

 

・多発性骨髄腫

・骨内局所性プラズマ細胞腫

・髄外性プラズマ細胞腫

上記の3つにわけることができます。

 

これらのうち、骨髄より発生して全身に広がる多発性骨髄腫が臨床的には重要であり、プラズマ細胞が異常な量の抗体を生産した結果全身性の症状が引き起こされる病態であります。

 

多発性骨髄腫は犬の血液の腫瘍の8%程で比較的稀な腫瘍ではあります。

発症年齢中央値は犬の平均が8~9歳、猫は12~14歳で、人における発生要因は化学物質への暴露や抗原刺激に関与すると考えられているが、動物では不明です。

 

産生される抗体にも種類があり、IgM,IgA,IgGの3つが一般的であります。

犬の多発性骨髄腫の多くがIgAもしくはIgG産生のタイプでIgM産生型はごく稀にしか認められません。この抗体(Ig)はM>A>Gの順に大きさが異なり、一番大きいIgM産生の病態はマクログロブリン血症とも呼ばれ、大きな抗体蛋白が過剰生産されるために血液の粘稠度が上昇し様々な弊害を引き起こしやすい病態となります。

 

症状

多発性骨髄腫による臨床症状は非特異的なものが多く、元気消失、食欲不振、虚脱など他の疾患の症状にも共通してみられるものが多いです。その中でも少し特徴的なものとして、血液中のカルシウム(Ca)が高く、骨融解を伴う骨の痛みなどがあります。

 

 

診断

この病態は特徴的な症状に欠けるため、はじめから疑って診断をしていくというよりも、調子が悪いために全身のチェックを行った結果、疑いが持たれ、診断に至るという流れが多いと思われます。よって、ひとつの検査で診断できる病態ではなく、血液検査、尿検査、レントゲン検査、超音波検査の検査結果から、多発性骨髄腫の疑いが強くなった場合、尿中の特殊なタンパク質の検出(ベンズジョーンズ蛋白)や血液中の蛋白の検査(血清蛋白電気泳動)、骨髄検査(骨髄穿刺による細胞診)が追加検査として考慮され、診断を下していく形になります。

 

治療

多発性骨髄腫の治療は抗腫瘍療法とともに、続発性にみられる様々な疾患に対しても治療を行っていく必要があります。よって実際に行う治療内容は各々の病態によって異なってきますが、一般的に、点滴による水和の改善、易感染性に対する抗菌薬の使用などをはじめ、高カルシウム血症が存在し、骨の疼痛が見られる症例には骨・カルシウム代謝薬などの使用が状態改善につながるケースもあります。

抗腫瘍療法としては化学療法が一般的であり、メルファランと呼ばれる抗がん剤とステロイドの併用療法が第一選択になると思われます。抗がん剤の使用に際し、副作用のリスクは常に伴うため、注意が必要な治療にはなりますがメルファラン使用による化学療法の反応率は92%で、生存期間中央値540日というデータも出ているため、化学療法による治療価値は十分にあると考えられます。

 

 

おわりに

当疾患は飼主様がご自宅で発見できる類いの疾患ではありません。

実際にはオーナー様が感じた小さな違和感がこのような疾患から引き起こされている可能性も十分に考えられます。特に高齢にさしかかった子に生じた些細な日常の変化にはくれぐれも気を付け、様子をみるのではなく早めの受診に来ていただくことをお勧めいたします。

2020.06.27