動物たちの病気 症例集診療内容の一部紹介

動物たちの病気 症例集

甲状腺癌

甲状腺癌

 

甲状腺とは頸部に一対存在するホルモンを分泌する器官です。甲状腺癌は犬、猫ともに存在する腫瘍ですが、犬における発生率の方が高いとされています。

この癌は通常、大きく腫大し、片側性でかつ正常組織への浸潤が激しいことが多いとされています。中〜高齢(平均10)で発症し、好発犬種はボクサー、ビーグル、ゴールデンレトリーバーとされています。大きくなりやすい腫瘍のため、その物理的圧迫や周囲への浸潤による呼吸、嚥下障害を主訴に来院されるケースが多いとされています。

 

一方、猫では甲状腺の悪性腫瘍の発生率は犬と比較し低いとされています。

臨床症状は犬と同様です。

 

臨床症状

 

呼吸困難、発咳、元気消失、体重減少、嘔吐、嚥下困難、食欲不振、顔面の浮腫、発声障害などが一般的です。

 

進行症例では、肥満、元気消失、被毛粗剛、低体温などの症状がみられるケースもあります。

 

診断

 

問診、触診にて症状の有無や腫瘤の部位、大きさなどを確認します。血液検査を行い前進状態を把握し、レントゲン検査、超音波検査にてその他の臓器に転移がないかを確認します。腫瘍を診断するためには細胞、組織を確認する必要があるため腫瘍自体を針で刺し、細胞を採取するFNA(Fine-Needle-Aspilation)による検査を行う場合もあります。甲状腺癌の特徴として非常に腫瘍の中に血管が豊富なのでFNA検査を行っても血液ばかりが採取されること、超音波検査で腫瘍を確認した際に血流豊富な画像が確認されることなどが特徴となります。よって、細胞の形を観察することができなくとも、臨床症状と各種検査における所見を考慮することで甲状腺癌を疑うことは可能であります。ですが、確定診断を行うには腫瘍自体を手術で切り取って、病理検査にて組織診断を行うことが条件となっております。

 

治療

 

腫瘍自体が周囲組織へ浸潤しておらず、転移のみられない場合には手術による外科的切除が第一選択になります。この際甲状腺に付着する形で存在する上皮小体というホルモン分泌を行う臓器も同時に切除せざるを得ない可能性もあるため、術後にホルモン製剤の投与が必要になる可能性もあります。(ただし、機能回復するまでの一時的投与で済む場合もあります。) また、甲状腺ホルモン自身も不足してしまう可能性があるため、手術を行った際には術後の管理がとても重要になってきます。

甲状腺癌が周囲の組織に浸潤しており、切除困難な腫瘍に対しては放射線治療が推奨されます。甲状腺癌は放射線に感受性のある腫瘍と確認されており、切除困難、または、切除が不完全になってしまった手術後の症例に対し効果を発揮するとされています。

遠隔転移がある症例や外科的切除が不完全でかつ放射線療法に反応しない、あるいは放射線療法が行えない場合には化学療法(抗がん剤治療)を選択します。化学療法にはドキソルビシンや白金製剤(シスプラチン、カルボプラチン)の単剤あるいは併用が報告されているが、その奏効率は30~50%とされています。

 

※  奏効率

腫瘍が完全に検索できなくなるもしくは、一定基準以上の縮小が確認される確率のこと

 

 

近年では日本における飼育頭数の関係上、ビーグルとゴールデンレトリーバーにおいて甲状腺癌が発見される機会が増えております。上記のような症状、もしくは腫瘤が確認できた場合には早期に受診されることをお勧め致します。

2019.11.08